『O滞』は、大分県別府市で開催された芸術祭「in BEPPU」で展開された、梅田哲也による地図と音声を手掛かりに数カ所を回遊する体験型の作品である。音楽、美術、舞台芸術など、複数の分野を横断しながら活躍している梅田哲也は、今までも『O才』や『O階』といった体験型の作品を発表してきた。

『O滞』では、体験型の作品展開とともに、映画『O滞』も劇場公開され、重層的な試みがなされている。普段は人が立ち入らないような場所、認識していないような場所を舞台に、訪れる者たちが捉える世界がここではないどこかへと接続されていくような体験をしていく。

本書は、カタログや記録集という立ち位置でなく、本書そのものが『O滞』の連作として展開される。尾中俊介(Calamari Inc.)とのコラボレーションによる、日英両面開きの回文構造。梅田による初めての長文エッセイ、映画台本のほかに、正路佐知子(福岡市美術館学芸員)による寄稿。そして写真家・天野祐子による多くの写真を収載。別府の展覧会を体験する人にとっては、作品体験がより重層的なものとなり、展覧会に訪れていない人であっても、本書を通して梅田作品の奥深くに触れることができる。

 

梅田哲也(うめだ てつや)
建物の構造や周囲の環境から着想を得たインスタレーションを制作し、美術館や博物館における展覧会の他に、オルタナティブな空間や屋外において、サイトスペシフィックに作品を展開する。パフォーマンスでは、普段行き慣れない場所へ観客を招待するツアー作品や、劇場の機能にフォーカスした舞台作品、中心点をもたない合唱のプロジェクトなどを国内外で発表。また先鋭的な音響のアーティストとしても国際的に知られている。近年のパフォーマンス作品に「Composite: Variations / Circle」(Kunstenfestivaldesarts 2017、ブリュッセル、ベルギー)、「INTERNSHIP」(国立アジア文化殿堂、光州、韓国、2016年/TPAM 2018、 KAAT神奈川芸術劇場ホール)など。近年の展覧会に「リボーンアート・フェスティバル」(石巻、2019年)、「東海岸大地藝術節」(台東、台湾、2018年)、個展では「うたの起源」(福岡市美術館、福岡、2019-2020年)「See, Look at Observed what Watching is」(Portland Institute for Contemporary Art、ポートランド、米国、2016年)がある。2019-2021年度セゾン・フェロー。