「りんご通信 2」

川崎祐    本と明け方2 ─ 錘としての疾しさ
楠本亜紀   風景を手探る 第一回 はい、風景です。
木村和平   わたしは道すがら2
川瀬慈    虹の蛇
上原沙也加 北海道から。沖縄から。2 ─ ついの住みか
椿昌道    移動する写真集 ─ 台湾
齋藤陽道   ホットブルー日記
清水裕貴   Bar Landscape Vol.2 ─ 光のない部屋

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私の初めての写真の仕事は、国外の新聞からの撮影依頼でした。掲載された写真は、紙面の半分を占めてレイアウトされており、写真と読者に対する信頼だと勝手に感じた私は、そのことにとても驚きました。りんご通信の原点はそこにあります。それまで写真がそのような扱いを受けている国内の新聞を、少なくとも広告以外では見たことがありませんでした。その差異に私は、情報を複層的に伝えようとするメディアの一つの理想的な形態を見た気がしました。

一枚の写真、あるいは連なりの写真群は、それを見て理解しようとする側の意識をも拒もうとしているかのようでとてもわかりにくいです。その複雑さはまるで、この世界と私たちとの間に存在する理解困難な厚みのある隔たりそのもののように思えなくもありません。

がしかし、反面、今の日本では写真にまつわる印刷物が姿を消しつつあるように思えます。それは同時に、この社会が複雑さを受け止めるのではなく、わかりやすいものを消費するように仕向けられている現実と重なる気がしています。

であるならば今、あえて複雑さを詰め込みながら写真を軸に据えた読み物を定期で刊行してもいいのではないだろうか。そう思い立って作られたのがこのりんご通信です。写真だけでなく、言葉すらも破壊される国にあって、写真と言葉を同時に大切に紡いで行こうとするささやかな抗い、試みだと思っています。

「りんごが木から落ちて初めて何かを知った。りんごを口にしてこの世界が一変した。りんご通信が届ける写真と言葉が、皆さんの小さな契機になれば嬉しいです。それぞれのりんごと、香港紙アップルデイリーに敬意を表して。」

髙橋健太郎(りんご通信 編集長)

 

以前、松本市に住んでいたとき、駅前に魅力的な酒屋を見つけた。オーナー自ら、長野県内を中心に酒蔵やワイナリーを巡り、醸造の苦労や喜びをつぶさに知り、時間を共にしながら仕入れていた。松本を離れてからも、年に数回、手書きの学級新聞のような案内が届く。酒のこと、酒をつくる人のこと、酒を愉しむ人のこと。私もいつか、こんな「手紙」を出せたらと思うようになった。

ふとした夜の会話から「りんご通信」は生まれた。どんな本も忽然と出来るわけではなく、さまざまな水路が周りにある。その光景をお伝えすることから、会話が始まるのも素晴らしい。
そして、今回設けた「連載」という場が、行方を定めない戦きとともに、一冊を生む土壌となるだろうことも初めてのときめきとなっている。

姫野希美(りんご通信 編集員)