「SAKURA」は、鈴木理策が20年近く継続している、
「海と山のあいだ」「White」と並ぶ代表的シリーズのひとつ。

日本人にとって最も親しみのある花であり、
同時に日本写真にとって最も凡庸なモチーフの一つともいえる
桜の風景を撮り続けることは、
鈴木にとってはむしろ自らの視覚を拡張するための絶えざる修練であるのかもしれない。

本書に収録された作品は、2016年の春に撮影されたものがほとんどだが、
ここにも新たな視覚的発見が見て取れる。
今までのシリーズの基調を成す、桜の花房群の中に埋没するかのような体感的で抽象的な視覚に加えて、
花片で満ちた水面の平面的な広がりの中に桜の枝の立体感が柔らかく溶け込む作品や、
風による一瞬の花房群の動きを白い光の軌跡として捉えた作品などは、
鈴木の視覚の新たな空間的・時間的な展開を予感させる。

いつも同じで、いつも異なる〈SAKURA〉という現象に、
その都度、新鮮な畏怖を持って対峙する鈴木の意識の震えが、
そのまま、頁をめくる者の鮮やかな驚きとなって立ち上がってくるだろう。