他人を見ても自分を見出せないとき、目の光沢に焦点を合わせる。
そうすると、そこに自分が映り込んでいることに素直に驚く。
そのような写真集を作りたいと思った。
結果は地味で綺麗すぎる本になったが、僕にとってそれは綺麗すぎることはないと、目と頭でちゃんと分かっていた。

一つ目の写真集が遺作にならないよう頑張ります。

——秦雅則

いつの日も写真家、いつまでも暇人である秦雅則による一つ目の写真集。2013年、blanClassによる出版物「写真か?」では鷹野隆大氏と世代差のある価値観をぶつけ合う三度の対談による対談集を刊行し、A組織による出版物では2014年「二十二世紀写真史」が記憶に新しい。その「二十二世紀写真史」では、鷹野氏との対談とは趣向を変え同世代の作家35名と毎夜一糸まとわぬ写真語りをし、酩酊しつぶれていた。

そんな秦だが、実は写真家としても写真新世紀のグランプリ受賞後、国内外で多くの展示会を開催している。自ら企画したトークイベントでも飲みつぶれているだけではなく、写真についての憶測と妄想を一つ一つ現実化させ、しっくりとくるまで頭に染み込ませていたようだ。そこでついに!万を待しての写真集刊行とあいなるわけだが!その作品群は、秦曰く「ただの風景なんだけど」である。

これまで多種多様な写真作品を創り続けてきた秦だが、この写真集では2011年からの5年間撮り集めた風景写真のみを纏めている。その独特の視線から見つめられている草、花、石は、どれも擬人化されたもののようにも感じられるし、144頁、作品72枚におよぶ組み合わせは、未だかつて誰も読んだことのない壮大な物語のようでもある。ただの草花がただの風景に見えないこの写真集「鏡と心中」は、これまでの写真史に囚われない、しかし、安易に背を向けようともしない秦雅則の集大成となり、始まりの一冊となるだろう。