$88.04
- Hardcover
- 254 pages
- 182 x 230 mm
- ISBN 9784908390104
- Japanese, English
- 2022
日本タイポグラフィ年鑑2023ブック・エディトリアル部門ベストワーク賞受賞
『黒川紀章のカプセル建築』大阪万博、中銀、別荘からカプセルホテルまで、思想と時代を関係者インタビューと写真で徹底解明!日英バイリンガルの決定版。
■カプセル建築とは?
建築家の黒川紀章(1934-2007)は日本を代表する建築家であり思想家です。昨今では、1972年に竣工した中銀カプセルタワービルの解体とカプセルの再利用が決まり、大きな話題を呼んでいますが、カプセル建築はこれだけではありません。著者の工学院大学教授の鈴木敏彦は、1984-1990年に黒川紀章建築都市設計事務所に在籍し、黒川紀章と共に仕事をした建築家です。始めに1969年のカプセル宣言を研究し、歴代のカプセル建築を整理しました。そして元所員で当時の設計担当者である阿部暢夫氏と茂木愛子氏に再会し、インタビューを行い、1970年の大阪万博のカプセルのパヴィリオンや、1972年の中銀カプセルタワービル、1973年の別荘カプセルハウスK、1979年のカプセル・イン大阪を徹底的に読み解きました。さらに、カプセルの再利用と今後の展開について、中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト代表の前田達之氏にその熱意をうかがい、インタビューを収録しました。ノマド的ライフスタイルを50年前に予言していた黒川紀章の知られざる素顔や、カプセルホテルとして世界に普及していった経緯、イタリアのミラノ工科大学の提案するカプセルタワの再活用など、本書は日本から発信すべき主要な情報を日英併記で編集したカプセル建築の決定版です。
■撮りおろしオールカラー写真集
数々のモダニズム建築の撮影を手掛ける写真家の山田新治郎が、解体直前の中銀カプセルタワービルをはじめ、長男の黒川未来夫氏が保有するカプセルハウスKと、埼玉県立近代美術館所蔵の北浦和公園のカプセルのオリジナルの戸棚や窓や家具の詳細に至るまで撮り下ろしました。オールカラー見開きの美しい写真集に仕上がりました。
■本書のデザイン
鈴木敏彦の「本も建築だ」という意図から(1968年に建築家ハンス・ホラインが「すべては建築だ」と宣言)、丸窓のある本を造りました。厚手の表紙の丸窓から1969年のカプセル宣言の文字がのぞきます。「竣工写真」を山田新次郎が撮り下ろしました。デザイナーの舟山貴士は、背中の糸綴りが見えるコデックス装で物質感を、厚手の表紙のエンボス加工でカプセル建築を、そして黒と銀色のカバーで中銀カプセルタワービルの当時の近未来感を表現しました。メタボリズム建築(新陳代謝)の思想を、持続可能性のある書籍として長く手元に置くことができる豪華愛蔵本に仕上がりました。
■コデックス装
しっかり開くため、左右のページにまたがる写真が良く見えるのが特徴です。
発刊に寄せて
鈴木敏彦(建築家)
黒川紀章の薫陶を受けた者として、カプセル建築についていつかまとめたいと思っていたが、ようやく1冊の本として結実した。本も建築だ、という思いでこの本を造り、丸窓がある本が出来上がった。丸窓からのぞくインテリアはカプセル宣言だ。本格的にカプセル建築の研究をはじめたのは、中銀カプセルタワービルの解体が現実味を帯び始めた頃だ。しばらくして、コロナ禍により、暮らし方、働き方に劇的な変化が訪れた。そこにオンラインで仕事をして、多拠点を行き来する人々が登場した。それはまさに黒川が50年前に予言したホモ・モーベンス(動民)そのものだった。黒川は、カプセルはホモ・モーベンスのための住まいであると宣言し、中銀カプセルタワービルを設計した。そして2022年4月、この建築は解体される。多くの名建築は惜しまれながら解体されるのが常だが、この建築は消滅しない。カプセルは取り外され、世界中の美術館に寄贈され、国内では宿泊体験を提供する場として再利用され、生き続ける。かつてこのような展開が建築物にありえただろうか。建築の持続可能性を問う新しいメタボリズムのはじまりだ。ホモ・モーベンスの時代が訪れた今、黒川紀章のカプセル建築のその後から目が離せない。
山田新治郎(写真家)
近年、1960年以降に建てられたモダニズム建築の多くが終焉の時を迎えている。写真家として、モダニズム建築の写し込み方を模索しているなか、黒川紀章氏が残した数件の現在の姿を写す機会を頂いた。
中銀カプセルタワービルでは、オリジナルに近い状況に残された部屋で、取り壊しが模索されている中、築50年が経っても多くの人々を魅了して来た空間の匂いを感じながらの撮影だった。
軽井沢の山の中にひっそりと存在していたカプセルハウスKでは、現在のオーナーである黒川紀章氏の御子息の黒川紀章氏が設計し残した建物に対しての深い想いを感じながら撮影させて頂いた。崖から生え出た様に建つカプセル群を表現するのは足元を気を付けながらの撮影だったが、紅葉と飛び出す様なカプセル群のコントラストが興味深かった。
北浦和公園に設置されている中銀カプセルタワービルのモデルハウスは通常は中に入る事が出来ないが、今回特別に内部撮影が許された。50年経った今もまさに外気に触れずにカプセル密閉保存された様に綺麗に保たれた空間を写し込めたのは、非常に貴重な経験になった。
これらの建物の残り方にも興味を持ちながら、日本におけるモダニズム建築の今後を追って行きたいと思う。
舟山貴士(デザイナー)
本の要素は様々なものに例えられます。そのうちの一つが建築です。はじめのページは「扉」と呼ばれ、読者を建築の中に呼び込むように開かれます。『黒川紀章のカプセル建築』では、この建築物としてのイメージを造本に落とし込みました。
カバーは「中銀カプセルタワービル」の、当時の近未来感を感じられる黒と銀のエントランスです。表紙は物質感のあるエンボス加工でカプセル建築を表出させました。カバーが表紙よりも短く、また、表紙にあるくり抜きの「窓」から中身が見える構成です。本は平面的に捉えられることもありますが、(建築と同じように)立体物です。ファサードだけの建築が成立しないように、本も「表紙」だけでは捉えられません。この本のエントランスから扉を開けて、カプセル建築を堪能していただければと思います。
今回、残念ながら解体されてしまう中銀カプセルタワービルを含め、黒川紀章氏の歴史的な建築の記録を残すことに携われたことを光栄に思います。はじめて中銀カプセルタワービルを見た時の自分の驚きが、造本や内容から伝わればと願っています。
杉原有紀(編集、翻訳)
黒川紀章の名前を聞くと、国立新美術館や海外の公共建築を手掛けた建築家としての活躍はもとより、晩年の都知事選を思い出す方も多いかもしれません。しかし、本書では建築家を良く知る人たちの視点から数々のカプセル建築を編集し、黒川紀章の予見的な思想を再評価しています。アトリエOPAのファウンダーである鈴木敏彦は、80年代後半に黒川紀章都市建築設計事務所に在籍し、黒川紀章と濃密な時間を過ごしましたが、当時の会社では70年代のカプセル建築は一段落し、海外の大型案件に追われていたといいます。しかし工学院大学建築学部で共生デザインを論じるにあたり、鈴木は師たる建築家との日々を振り返る好機を迎えました。そこで、元所員で設計者である阿部暢夫氏と茂木愛子氏にカプセル建築の奥義を尋ね、「カプセル建築プロジェクト」のウェブサイトをまとめたのですが、本書では新たに、社長であった師との日々を「私と黒川紀章」という終章に書き下ろしました。オランダのヴァン・ゴッホ美術館では新館の設計を提案し、パリ出張では若尾文子さんと3人で出かけ、パシフィックタワーを竣工し、国内では豊田大橋など大型の案件の設計を共に手掛けた日々は、知の巨人を間近に見た者だけが知るエピソードです。長男の黒川未来夫氏、日本発のカプセルホテルであるカプセル・イン大阪、ミラノ工科大学のマルコ・インペラドリ研究室の協力と、山田新治郎氏の写真、舟山貴士氏の装丁により、Opa Pressから本を出版しました。ようやくある種の使命を全うし、カプセルのミームを次世代に残すことができた気分です。