1948年 東京に生まれた神村光洋は、1966年に日本大学写真学科入学、1969年に同校を中退し、以後フリーランスのカメラマンとして商業写真の分野で活動しました。「頼まれれば何でも撮った」と語る神村は、いっぽうで仕事の合間を縫って個人的な作品制作に取り組んできました。その被写体は「建築」です。

全101カットを収録する本書は、大きく3つのパートで構成されます。

前半は白黒写真57点を掲載します。1980年代後半から2000年代に制作された4つのシリーズを、本書では「不在の光景」という1つの塊として再編集しました。建築物に反射した太陽光が都市に纏う様子を撮影した「スペクトログラム」、バブル経済の土地投機により個人商店や住宅が立ち退いた空き地に立ち現れた「壁」、消えゆく商店街をスナップした「街」、そして街を行き交う人々が〈置き忘れた〉影を写し撮ろうとした「通過者」。本書デザイナーの芝野健太は、都市を歩き回る神村の脚の感覚と、被写体と出会い撮影する衝動を表現したいと考えました。

前半と後半のあいだには、「習作 1968」として、神村の学生時代の写真9点を差し込みます。神村の眼差しは、批評的でありつつも、どこか素朴さを残しています。本書編者の飯沼珠実は、神村が撮る「不在」の写真における市民の気配に興味を持ち、神村の目に「不在」が映りはじめる前、1968年前後に撮影されたスナップ写真を本書に収録することを希望しました。

後半はカラー写真35点を掲載します。神村の代表作「動物園」(第23回伊奈信男賞受賞)は、世界各都市の動物園をめぐり、動物が姿をみせないタイミングで飼育施設を撮影しました。動物園とは、人間にとっては劇場であるいっぽうで、動物にとっては自らが生きる環境といえます。カメラをとおして、見る者 / 見られる者という関係、空間のコンテクストのひずみを見つめ、舞台装置としての動物園を描きだします。本書で8点を発表する「無限遠の先」は、今日も撮影中の意欲作となります。

本書の最後には美術史家・伊藤俊治による批評「不在を撮る」を収録します。

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