静岡市出身の写真家・佐内正史(1968-)は、1997年に写真集『生きている』(青幻舎)でデビュー、日常の気配をとらえた写真は同世代から多くの共感を呼び、一躍注目を集めました。2003年には、写真の世界で優れた成果をあげた写真家に贈られる木村伊兵衛写真賞(第28回)を『MAP』(2002年、佐内正史事務所)で受賞、2008年には自主写真レーベル「対照」を設立し、写真集の刊行を続けています。さらにCMや雑誌での仕事、シンガーソングライター曽我部恵一との音楽ユニット「擬態屋」での発表など、その表現は留まることがありません。身の回りの何気ない景色を捉えた佐内の写真は、歴史的な瞬間が記録されているわけでも、特別な意味が含まれているわけでもありません。ただそこには、ある場所に居合わせ、目の前のものに対峙したという写真家の軌跡が残されているだけです。しかしこうした平然で、淡々とした瞬間を積み重ねた先に、時間も空間も超えた普遍的な日常性が浮かび上がってきます。佐内の写真に触れると、自分の記憶の奥底に眠っていた風景が鮮やかに立ち現れてくることでしょう。

美術館での個展は2009年の川崎市岡本太郎美術館ぶりとなる本展では、「静岡詩」というタイトルを掲げ、新たに撮り下ろした写真と、過去に撮影した写真とを織り交ぜて発表します。

写真が写真であることの意味や「表現しない写真」を正面から問い続けてきた佐内の眼に、自身が生まれ育った静岡は今どう映る/写るのか、是非ご覧ください。