房総から伊豆、紀伊半島へと、黒潮を遡上する夜の旅に出た。海岸線に沿って移動していくと、勝浦、和田浦、二見浦、内浦など、浦と呼ばれる多くの入江があることに気づく。
写真集『URASHIMA』は、漢字で書くと「浦島」である。島は日本列島、浦は水際の渚や土地を指し、まさに日本の景観特質を短く言い表した言葉である。伝説にある浦島太郎は、日本人そのもののシンボル的呼称でもある。わたしは、想念として浦島太郎のように海の果てに行き、もう一度陸に戻ることで、新しい風景の発見=風景の0地点に立てるのではないかと思っている。海の彼方から戻った視線で陸を眺める時に、現代の神話が生まれ出そうな風景を〈URASHIMA〉と名づけた。陸と海との視界を巡りながら、暮らしの隙間に眠る、能動的に隠遁したくなるような風景と交信し続けた。

― 「URASHIMAー能動的隠遁」から抜粋