あの中銀カプセルタワービルが、トレーラーとして街中を走る。 約600ページ、山田新治郎氏の撮り下ろしによる442枚の写真で伝えるドキュメント写真集。 銀座のビルの解体、クレーンによるカプセルの救出、鉄骨の軽量化を経て、 50年前に黒川紀章が描いていた移動可能性と持続可能性を実現した。カプセルの思想を網羅した『黒川紀章のカプセル建築』の続編にあたるのは、丸窓のあるカプセルのような書籍である。

『Reborn! 動く中銀カプセル』ではカプセルの変容を3つの章にまとめました。
失われた中銀カプセルタワービル。第1章では解体から救出へのプロセスを記録しました。
第2章では建築を移動体に再生するプロセスを記録しました。
第3章ではトレーラーとして第二の人生を歩んだカプセルの活用を紹介しています。

■中銀カプセルとは?
日本を代表する建築家であり思想家である建築家の黒川紀章(1934-2007)が、東京・銀座に1972年に中銀カプセルタワービルを竣工しました。1970年の大阪万博でカプセルのパビリオンを発表した黒川紀章は、プレハブ建築のカプセルが、今後の個人のリモートワークや、ノマド的ライフスタイルに対応すると予見したのです。
2022年のビルの解体にともない、取り外したカプセルの利用方法が議論されました。2023年に株式会社淀川製鋼所が最初にトレーラーカプセルとして展示会にて一般公開したのを皮切りに、松竹が銀座SHUTLEに設置し、GINZASIXが年末にカプセルを限定公開しました。2024年現在、INAXライブミュージアム、和歌山県立美術館の設置に加え、海外の美術館や神奈川のカプセルヴィレッジでの公開が予定されています。『Reborn! 動くカプセル建築』はこれらのカプセルに共通する解体から再生までのプロセスと、トレーラーとして独自の変貌を遂げた姿を収録したものです。

■YODOKO+ トレーラーカプセルについて
淀川製鋼所では中銀カプセルタワービルから取り外したカプセルのひとつを取得しました。現在、トレーラーカプセルは、株式会社淀川製鋼所のデザインブランドであるYODOKO+(ヨドコウプラス)のシンボルです。淀川製鋼所のデザインコンサルティングを担当する鈴木敏彦と杉原有紀は、同社と黒川紀章の接点に着目しました。1970年の大阪万博で黒川紀章はカプセルのパビリオンを発表し、プレハブ建築のカプセルが個人のライフスタイルに対応すると提唱しました。同年、淀川製鋼所もに家庭や社会における収納のニーズに応じ、ヨド物置の製造と販売を開始しました。同社ではYODOKO+トレーラーカプセルの継承と公開は社会貢献活動であり、空間の機能拡張性や持続可能性を世に問うものと位置付けています。本書にも収録したように、2022年の千葉や東京の展示には大人だけでなく子供がつめかけ、再生したカプセルを間近に見られる機会として人気を博しました。

■動く中銀カプセル
鈴木敏彦はカプセルを車両へと再生し、黒川紀章の構想を実現しました。車検登録のため、車両総重量の上限の3.5トンに合わせてカプセルの減量に挑みました。過剰な構造部材を0.5トン取り除き、壁と天井は現しで仕上げ、家具とユニットバスの一部のみを復元して、3.47トンを達成しました。折しも2022年の道路交通法施行令の改正で自動車の積載制限が緩和され、車幅2.7mのカプセルが公道を移動できる体制が整いました。栃木の工場から東京へ、そして新宿の都庁前へと移動するカプセルを山田新治郎が追い続け、建築から移動体へと変貌した「走る中銀カプセル」の写真が記録されたのです。

■撮りおろしオールカラー写真集
数々のモダニズム建築の撮影を手掛ける写真家の山田新治郎が、解体直前の中銀カプセルタワービルの内外をはじめ、工場でのカプセルの再生や、トレーラー化するための減量、そして各地での展示会の様子を撮り下ろしました。オールカラー見開きの美しい写真集に仕上がりました。本体の向きを変え、丸穴から2種類の表紙をのぞかせることができます。

■コデックス装
のど(本の折り目)までしっかり開くため、パノラマで見開きの写真が見えるのが特徴です。

 

■著者について
山田新治郎は戦後の名建築の消え際を撮り続けている写真家です。工学院大学教授の鈴木敏彦と共著で『黒川紀章のカプセル建築』を2022年に上梓しました。鈴木敏彦は1984-1990年に黒川紀章建築都市設計事務所に在籍し、黒川紀章と出張し主にフランスの建造物を手掛けました。退所後、大学で教鞭をとり始めてから改めてカプセル建築を研究し、黒川紀章が50年前に予見した未来=2024年現在を照らし合わせ、ホモ・モーベンス(動く人)の暮らしを実践しています。

■著者より一言(山田新治郎)
近年、多くのモダニズム建築が変貌して行く中、建築が移り行く姿をこの様な写真集として残せたことは、とても意味深いことだと思う。すべての関わった方々に感謝致します。

■著者より一言(鈴木敏彦)
黒川紀章は、「カプセルはホモ・モーベンスのための動く住まいだ」と語った。生き延びたカプセルの一つを動くカプセルに再生できて本当によかった。黒川の墓前にも報告した。

■本書のデザインについて(舟山貴士)
『黒川紀章のカプセル建築』は解体された中銀カプセルタワービルを本として再解釈して造本に取り組んでいました。今回の『REBORN!』は、そこから外されたカプセルのユニットが走り出すイメージで造本しています。オブジェとしても「動く中銀カプセル」を体感してください。

■本書の発行について(杉原有紀)
本書の刊行は、『黒川紀章のカプセル建築』が日本タイポグラフィ年鑑2023のベストワーク賞を受賞したことを機に決まりました。2022年末のクリスマスにATELIER OPAにて、山田、鈴木、舟山、杉原が集い、次なるカプセル本の構成と装丁について話し合いました。鈴木の依頼で、山田はトレーラーカプセルに変わるまでの経過を膨大な写真で撮り溜めていました。「次のタイトルは『Reborn!』だね」「カプセルの魅力やトレーラカプセルのモバイル性を最大限に伝えるには、正方形で丸窓の空いたケース入りの本が良い」「言葉は極力少なくして、見開きで裁ち切りの写真で一連の流れを見せる写真集にする」「オブジェのような本」と夜遅くまで話が尽きませんでした。舟山のノートには既に丸穴が空いた本のカバーの構想がまとまっていました。