岡本太郎が東北に見出した縄文精神の片影

1957年2月。早朝の秋田駅に降り立った岡本太郎はいきなりシャッターを切りはじめた。ホームで“都会には絶対にいない、ぶ厚く、逞しく、優しい表情の原日本人”たちと出会ったからだ。同じ日に見た「なまはげ」には人間と霊が自在に交信する“原始日本”が宿っていた。目に見えない力と交信する“呪術の心”だ。
東北に魅了された太郎は6月に岩手を訪れ、守り刀の装飾に蝦夷を見出し、「鹿踊り」に狩猟時代の名残りを感知する。そこに見たのは自然と溶けあって生きる縄文人の気配だった。
1962年7月には青森へ。イタコやおしらさまを取材して「オシラの魂―東北文化論」にまとめ、10月には山形で修験道を考察。1964年には『神秘日本』を上梓して独自の東北論を世に問う。
東北で原始日本の片影に触れた太郎は、日本人の血の中にいまも縄文の心が宿っていることを確信したにちがいない。東北で現日本のたしかなイメージをつかんだことが、その後の太郎の進路を決定づけた。
この記録は“岡本太郎の眼”を追体験する貴重なドキュメントであると同時に、いまはなき日本を生々しく伝える得がたい史料だ。