色を主題とした島尾伸三の写真集シリーズ《二分心》第1弾。限定300部。

長年にわたる写真家としてのキャリアを経て、島尾は「言葉に置きかえられぬ」写真の魅力にあらためて立ち戻る。2000年以降に撮影した写真を見直す作業のなか、島尾は世界各地の旅先で遭遇した光景、さして理由もなくごく自然に視線が向けられたその瞬間の、その色彩に目を向けた。まず、「金色に輝いて見える風景を集めてみよう」と思い立つ。自身が幼年時代を過ごした奄美では、大切なものを黄金にたとえることを思い出してのことだった。

写真家の身体とカメラという機材を通して捉えられた、偶然の光の交差。それは背後にいる写真家の思考を超えて、他者とも共有できる光の交差であるはずだ。本書は、「金色に輝いて見える」光景に満たされている。そこではただ光の微風が漂い、見る者はあやふやな現実世界へいざなわれ、開かれた光の通路に佇むこととなるだろう。本書に収録された写真の撮影地は、北米、欧州、アジアと広い範囲に及ぶ。ニューヨーク、ナザレ、リスボン、ミラノ、ベニス、ピサ、アムステルダム、香港、ソウル、長崎、東京、そして奄美の「黄金に輝いて見える」光景は、名前のない場所として隣り合う。

島尾はこの写真集のシリーズを「二分心」と名付けた理由について、巻末のエッセイで次のように語る。 「私の心が、小中学の時代に奄美大島で育ったがための動物的感覚と、東京で暮らすようになって50年にもなったために言葉で物事を考えるようになってしまった、2つの心を持つ事に気付いたからです。20歳あたりから言葉に支配されるようになり、なんだか実像を見ていないような寂しさがつきまとっています。いつも私は空と湖面に映った空の2つを眺めていて、どちらもが現実に思え、つかみ所の無い感覚に生きてきたようです。どうやら私は、子どもの頃の自然の声を聞いていた感覚を取り戻す為に写真を必要としてきたのかもしれません。」

島尾伸三
1948年、神戸生まれ。島尾敏雄、ミホの長男として生まれ、幼少期は母の生地である奄美大島で育つ。東京造形大学造形学部写真専攻科で写真を学ぶ。1975年に写真家として活動開始。1978年、写真家・潮田登久子と結婚、同年生まれた長女は漫画家でエッセイストのしまおまほ。多数の国内外の個展・グループ展で作品を発表。主な著書に、エッセイと写真による『生活』『季節風』(いずれも1995)、写真集に『まほちゃん』(2001)、『中華幻紀』(2008)、『Something Beautiful Might Happen』(2010)、『じくじく』(2015)、エッセイ集に『月の家族』(1997)、『ひかりの引き出し』(1999)、『小高へ 父 島尾敏雄への旅』(2008)など。

Madeleine Slavick
アメリカ、インディアナ州生まれ。現在、香港とニュージーランドを根拠地として詩人、写真家、ノンフィクション作家として幅広く活動。島尾伸三の写真集『Something Beautiful Might Happen』、『GOLDEN 黄金』にエッセイを寄せている。

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