第四の壁...現実世界とフィクションである演劇内の世界を隔てる、想像上の壁のこと。観客はその壁を通して舞台上での世界を観ている。

竹之内祐幸は、都市の風景、花や草木などの自然、身の回りの何気ない日常、様々な友人たちなどといった被写体を、真っ直ぐな視線で見つめることにより、幼少期に感じた孤独や疎外感、画一的なものの見方への違和感や疑問に対し、多様性とは何か、不自然さとは何かを問いかけ、物事の奥に潜む本質を露わにしようとしてきました。 幼少期、両親が共働きのため、家で一人過ごすことが多かった竹之内は、その孤独感や疎外感、また、そうした自分の弱さを悟られないよう振る舞い、他者との壁を作っていた、といいます。
そうした中で手にしたカメラは、多くの人がそうであるように、竹之内を他者と結びつける道具となり、自分本来の姿を表現する方法を見出していきます。

「写真を撮っているときでも、過去や今、これからの『自分』について考えていたけれど、いつのまにか写真を撮っているときだけ自分のことについて考えなくて済んでいることに気づいた」と語っているように、無心となって写真を撮り、身の回りのものを一つ一つ丁寧に見つめていくことにより、自分の弱さを他者に悟られないよう振る舞う、強がる自分、他者からの視線に怯える自分、から解放され、竹之内の内面から溢れた柔かな視線と鋭い観察眼により、被写体の魅力を十分に引き出し、全てのものが等価で、そこに存在することの美しさを炙り出しています。

竹之内祐幸(たけのうち・ひろゆき)は1982年東京生まれ。2008年日本大学芸術学部写真学科卒業後、同年第31回キヤノン写真新世紀佳作受賞。2009年、塩竈フォトフェスティバル特別賞受賞。