「長江」の源流への旅は過酷を極めた。

2台の四輪駆動車は幾筋もの河川を渡り、泥濘にはまり、酸素不足によるエンストを繰り返した。 車を降りた後は歩きに歩いた。

ようやく辿り着いたのは標高6621mの雪山の斜面を覆う氷河の舌端部(標高5500m)。 鋭く垂れ下がる氷柱から、何万年もの時を湛えた“雫”が滴り落ちていた。

身を低くして氷柱の下に潜り込み、その一滴を、指先にそっと受け止めてみる―

一瞬・・・時が止まった。
「長江」が、私の身体の中で、音を立てて流れ始めた。