$23.09
- 200 pages
- 257 × 182 mm
- ISBN 978-4-86541-165-2
- Japanese, English
- March 2023
Decades No.2 CONTEMPORAL JOURNAL 2021-22
写真雑誌 〈Decades〉第2号 !!
それぞれの時間の変容から、積み重なる今に思いを巡らす
本誌 Decades は 2020 年、緊急事態宣言下の急激な社会規範の変化による体感時間の変容の認識/錯覚について写真で編むことを試みて、写真家 岩根愛氏により創刊されました。
他者との距離に緊張する日々が終わりつつある今日にはどのような未来の予兆があり、それらは次に起こるどんなことの前の記憶として思い返されるでしょうか。
第2号では、写真家と作家、同世代で組まれたそれぞれ10組に、2021-22年に撮影された写真、出来事についてのエッセイが依頼されています。
ひとつにはコロナ禍であったとも言える「時間」は、しかし、2011年3月11日から続く時間や、自然環境が都市の姿へと変貌していく時間、戦時下のウクライナにも個人の中を流れ、やがては眼差しを交わすだろう私たちの間にも流れるものになる。
福島、東京、北京、杭州、ソウル、シェムリアップ、プノンペン、石巻、ワルシャワ、ウクライナ、チェコ、モルドバ、カリフォルニア、高知──、それぞれの時間の変容を照らし合わせ、積み重なる今に思いを巡らします。
「コロナ禍」のものとして企画された日記や写真集などはしかし、どれもが2020年春の最初の緊急事態宣言の時期がほとんどで、そのあとは格段に少なくなる。ほんとうはそのあとのことを知りたいのに、まだ続いている「今」の連続のことを知りたいのに、手がかりはとても少ない。(中略)
始まりのそのあとも続いている「今」が積み重なって、押し潰していく時間のことを、支えていく時間のことを、2022年6月の私は書こうとしている。
p30 - p34 柴崎友香 寄稿より 抜粋
さまざまな災害が地球規模で増大し、今どう生きるかを自分の問題として考え、前向きに取り組んでいかなければ生きられない時代に、岩根愛氏の必死の攻防が『Decades』という作品を生み出した。今、私たちはその第二部の一部分となり、私たちが共有している世界の還元方法を見つけ出そうとしている。
p136 榮榮&映里 寄稿より 抜粋
5秒以上視線を合わせると意識が覚醒し、体感時間がはるかに長くなるという実験結果を読んだ日、12 年前に 4 歳だったという福島の高校生に会った。大きな揺れ、商品が倒れたスーパーでつないだ母の手、避難所の天井、いま思い返せるのはそのぐらいの、断片的な記憶だけだという。
まもなく 80 歳になる友人は、1 年前と昨日はほぼ同じで、最近のことはすべて「15 年前」、それより前はすべて「40 年前」の出来事と記憶しており、成人以降の記憶は概ねその 2 つに分類されるという。
80 分の 1 と 16 分の 1 の時間に生きる彼らが視線を交わす時、或いはここ 3 年の(まるで自分の影ばかりと近づいたような)時間は、どのように同時に存在していたのだろう。
p200 岩根愛 あとがきより 抜粋
【 Artist Information 】
• Kanno Jun 菅野 純
写真家。アメリカで映像を学び、帰国後ポートレート、ランドスケープを中心に活動。2018年より東京から生まれ故郷である福島に拠点を移し、震災以降の福島の自然と環境をテーマに作品制作を行っている。第13回 Canon写真新世紀優秀賞(荒木経惟選)受賞、第42回伊奈信男賞受賞、 主な写真集に『The Circle』(自費出版)、『南米旅行』(リトルモア、いずれも菅野ぱんだ名義)がある。2023年『Planet Fukushima』を赤々舎より出版。
• Hideo Furukawa 古川日出男
作家。1998年、長篇小説『13』でデビュー。『アラビアの夜の種族』『 LOVE』『女たち三百人の裏切りの書』といった文学賞受賞作のほか『ベルカ、吠えないのか?』『聖家族』『南無ロックンロール二十一部経』『木木木木木木 おおきな森』『曼陀羅華X』など著作多数。2021年には東日本大震災から10年目の福島を取材したノンフィクション作品『ゼロエフ』を発表。朗読を中心に他分野の表現者とのコラボレーションも継続的に行なう。
• Yurie Nagashima 長島有里枝
主な個展に「そしてひとつまみの皮肉と、愛を少々。」(東京都写真美術館、2017年)、近著に『Self-Portraits』(Dashwood Books, 2020年)、2022年に日本写真協会学芸賞を受賞した『「僕ら」の「女の子写真」から私たちのガーリーフォトへ』(大福書林、2020年)などがある。2021年には金沢21世紀美術館で「ぎこちない会話への対応策̶ ─第三波フェミニズムの視点で─」展のキュレーションを務めた。京都芸術大学大学院客員教授、早稲田大学、東京大学、武蔵大学非常勤講師。
• Tomoka Shibasaki 柴崎友香
小説家。2000年の初の単行本『きょうのできごと』が 2003年に映画化。2010年『寝ても覚めても』で野間文芸新人賞、2014年『春の庭』で芥川賞受賞。著書に『わたしがいなかった街で』『千の扉』『百年と一日』など。
• Chen Zhe 陳哲
アート・センター・カレッジ・オブ・デザイン(ロサンゼルス)卒業(写真専攻)。写真を基盤にしながら近年は表現をさらに発展させ、さまざまなメディウムや環境が持つ儚さというテーマに焦点を当て制作に取り組む。受賞歴にインゲ・モラス賞(マグナム・ファンデーション主催、2011年)、第3回三影堂撮影大賞(2011年)、Foam Talent(2018年)など。展示歴にリレハンメル美術館(ノルウェー)、横浜トリエンナーレ、Plug In ICA(カナダ)、 バーデン=バーデン州立美術館(ドイツ)、ホワイト・ラビット・ギャラリー(オーストラリア)、第9回アジア・パ シフィック・トリエンナーレ(オーストラリア)、東京都写真美術館、第11回上海ビエンナーレ、ユーレンス現代 美術センター(北京)など。
• Jiang Feiran 蒋斐然
アーティスト、キュレーター。中国美術学院現代美術・社会思想研究所(ICAST)博士課程在籍。現代アートおよびキュレーション、前衛理論、カルチュラル・スタディーズを研究テーマとする。2021年、ジメイ×アルル・キュ レートリアル・アワード・フォー・フォトグラフィー・アンド・ムービング・イメージ受賞。
• Haneul Lee イ・ハヌル
写真家。韓国、ソウルを拠点に活動。写真を自分自身と他者とをつなぐ接点として捉え、作品を通してその両 者間にある様々な関係の形を探求する。見知らぬ他者との関わりの中で抱く形容し難い小さな不安感を起点とした作品を多く発表し、その代表作に約400人の人物を被写体にした〈Strangers〉シリーズや、続いて制作された新作〈Boomers〉などがある。デジタル時代への変遷が写真に与える影響に着目し、写真と私たちの住む世界との関係性をテーマに制作を続ける。2017年慶一大学校(韓国、大邱)写真学科卒業、2021年弘益大学校 大学院(ソウル)写真学科修士課程修了。
• Sharon Choi シャロン・チョイ
映画監督、通訳。韓国映画『パラサイト』が映画賞を受賞した際の通訳として広く知られるようになる。南カリフォルニア大学映画芸術学部を卒業後、短編映画、ミュージックビデオ、ポッドキャストの脚本、監督、製作に携わる。韓国と世界の架け橋として、言語、文化、アイデンティティの境界を問う作品の脚本と監督を多く手がける。
• Narin Saobora ナリン・サオボラ
カンボジア人映画監督、シネマトグラファー、写真家。クメール・ルージュ崩壊後のコンポントム州に生まれ、 1980年代の内戦の中で育つ。カンボジアの映画界で10年以上にわたりキャリアを積み、フェローとしてサンダンス・インスティテュートに携わる。アカデミー賞ノミネート歴のあるリティ・パン監督とともに数々のドキュメ ンタリー作品および長編映画を手がけるほか、複数の映画祭で賞を獲得したリダ・チャンの長編ドキュメンタリー作『Red Clothes』でシネマトグラファーを務める。また、個人のプロジェクトとしては現代社会をテーマにした作品を制作。2019年アンコール・フォト・ワークショップ修了。
• Jessica Lim ジェシカ・リム
カンボジア拠点の非営利団体、アンコール・フォト・フェスティバル&ワークショップでディレクターを務める。 15年にわたり世界各地を視覚芸術の領域でアーティスト支援の活動に取り組む。社会的平等に向けた活動に重点を置くバングラデシュ、ダッカの報道機関ドリック・ピクチャー・ライブラリーにて記事および写真の編集、 外部写真家のマネジメントに携わった後、カンボジアに移住。2006年南洋理工大学(シンガポール)卒業(ジャー ナリズム専攻)。
• Tamami Iinuma 飯沼珠実
「建築の建築」をテーマに、人々の記憶の集積としての建築物、建築物の住処としての都市や風景を被写体として写真撮影に取り組む。2008年から一年間、ライプツィヒ視覚芸術アカデミーに留学、2013年までライプツィヒに在住(2010年度ポーラ美術振興財団在外研修員)。2014年から一年間、シテ・アンテルナショナル・デ・ザー ル・パリに滞在。2018年、東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。2020年、版元「建築の建築」を設立。現在は東京を拠点に活動。
• Mariko Asabuki 朝吹真理子
2009年、『流跡』でデビュー。2010年、同作で第20回Bunkamuraドゥマゴ文学賞を最年少受賞。2011年、『きことわ』で第144回芥川賞を受賞。近刊に小説『TIMELESS』(2018)、エッセイ集『だいちょうことばめぐり』 (2021)などがある。2012~14年、国東半島アートプロジェクトにて発表された飴屋法水(演出・美術)による演劇『いりくちでくち』のテキストを担当し、共同制作。
• RongRong&inri 榮榮&映里
榮榮と映里によるアーティストユニット。人と自然との関係性を自身の身体を媒体として表現した作品や、生活を通して中国の社会的現実を捉えた作品などを発表。2015年、アルル国際写真フェスティバルと正式提 携した国際写真祭「ジメイ×アルル国際摂影季」を立ち上げる。主な展覧会に「大地の芸術祭越後妻有アー トトリエンナーレ 2012」(新潟、2012年)、「写真のエステー五つのエレメント」(東京都写真美術館、2013年)、 「LOVE展:アートにみる愛のかたちシャガールから草間彌生、初音ミクまで」(森美術館、2013年)、「即非京都」 (KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭、2021年)、など。日本写真協会賞国際賞(2022年)受賞。
• Shin Fukunaga 福永 信
主な小説の著書に『アクロバット前夜』『コップとコッペパンとペン』『星座から見た地球』『一一一一一』『実在の娘達』など。編著として、子供と大人の読者のための現代美術アンソロジー『こんにちは美術』、短編小説とビジュアルによる現代文学アンソロジー『小説の家』など。2015年、第5回早稲田大学坪内逍遥大賞奨励賞。
• Kazuma Obara 小原一真
写真家、ジャーナリスト。ロンドン芸術大学フォトジャーナリズム修士課程修了。東日本大震災と福島第一原発事故を記録した写真集『RESET』(Lars Müller Publishers、スイス)を2012年に出版。2015年よりチェルノブイリ原子力発電所事故の長期的影響を記録するため継続的にウクライナを訪れる。2022年3月よりポーランドでウクライナ難民取材を開始し、現在もプロジェクトを継続する。世界報道写真賞をはじめ、国際的な賞を多数受賞。
• Natalya ナターリャ
ロシア軍のウクライナ侵攻の翌日に祖母のリュドミーラ、娘のソフィアと共にポーランドに向けて避難を開始した。現在は首都ワルシャワのホテルで避難生活を送る。
• Ai Iwane 岩根 愛
写真家。1991年単身渡米、ペトロリアハイスクールに留学し、オフグリッド、自給自足の暮らしの中で学ぶ。帰国後、1996年より写真家として活動を始める。ハワイ移民を通じた福島とハワイの関わりをテーマに、2018年 『KIPUKA』(青幻舎)を上梓、第44回木村伊兵衛写真賞、第44回伊奈信男賞等受賞。離れた土地の見えないつながりを発見するフィールドワーク的活動を続ける。最新作品集に『A NEW RIVER』(bookshop M)。 アジアン・カルチュラル・カウンシル 2022フェロー
• Yosuke Amemiya 雨宮庸介
山梨/東京在住。サンドベルグ・インスティテュート(アムステルダム)修士課程修了。彫刻、ビデオインスタレー ション、パフォーマンスなど多岐にわたる方法で作品を制作。リンゴや石や人間などのありふれたものをモチーフに、超絶技巧や独自の話法などを用い「いつのまにか違う位相にふれてしまうかのような体験」や、「認識の アクセルとブレーキを同時に踏み込むような体験」を提供する----それらを通じて「現代」や「美術」について再考を促す作品制作をし続けている。
• Naoya Hatakeyama 畠山直哉
筑波大学時代に大辻清司に出会い写真を始める。1983年日本橋ツァイト・フォト・サロンでの初個展「等高線」 以来、主にアートギャラリーや美術館などで作品を発表する。ヴェニス・ビエンナーレ、アルル国際写真フェス ティバルなど海外での展示も多い。都市・自然・写真の関係に重きを置いた表現を展開してきたが、2011年の東日本大震災以降は、そこに個と集団、記憶などの込み入った話題が含まれるようになった。
• Otomo Yoshihide 大友良英
音楽家。1980年代より音楽活動を始め、海外での演奏活動から、映画やドラマの音楽制作、芸術祭等のディレクター等も務める。『あまちゃん』では東京ドラマアウォード2013特別賞、第55回日本レコード大賞作曲賞など数多くの賞を受賞。その他の代表作として『その街のこども』『いだてん~東京オリムピック噺~』『花束みたいな恋をした』『犬王』など。また東日本大震災を受けて立ち上げたプロジェクトFUKUSHIMA!の活動で2012年には芸術選奨文部科学大臣賞芸術振興部門を受賞。2019年には福島を代表する夏祭り「わらじまつり」改革のディレクターも務めた。