日常のなかの痛みは光によって息づく
ひとりひとりがその孤独においてつながりを帯びる 林詩硯 初写真集

台湾出身の写真家 林詩硯(Lin Shihyen)は、自傷行為に向き合うひとたちのポートレートを、被写体を募集しながら撮影してきました。
柔らかな自然光のもと、静かに照らし出されるひとりと、それらを取り巻く光景。
影の混じる奥行きと、空気の立体感が印象的な写真は、私たちが見ることによってはじめて存在が生起してくるようです。

時間と共にある傷跡。命から生じるいびつさ。生の揺らぎ。
日常のなかの痛みは光によって息づき、ひとりひとりがその孤独においてつながりを帯びることを、林詩硯の写真は語りかけます。
向き合って撮ることの、その眼差しの可能性に打たれる初写真集。


「痛みの唯一の共通点とは、他人と共有できない体験である。しかし、その共有できない痛みから生まれた孤独感はみんな同じだ。」と韓国の人権活動家のオムギホ氏は言う。

私が自傷行為を始めて14年経った。自傷癖があるわけではないが、いまだにやってしまう時がある。両親や精神科の先生含めた周りの人たちからは、それを知られる度に「死にたいのか?」と聞かれていた。こうした問いに当時の自分ははっきり反論することはできなかったが、その言葉に対して常に違和感を覚えていた。その時の私は死への恐怖を覚えるために自傷を始め、裂いた肌色から赤色が流れてきた時、本能的に怯えた。

その反応の底には、きっと生への欲求があるだろう。

気づいたら30歳を過ぎてしまい、今考えてみれば、命というのは、私が若い頃に思っていたよりずっと強いものなのだ。その色んな形の強さをこの目で見たかった。感情が潮のように日々満ち引き、それでも時間の流れはいつも静かで、風景の中に光っている。写真になったら、生きている証になれるだろうか。

いつか、その共有できない痛みから生まれた孤独感が和らぐように。

林詩硯

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