遠い惑星のように撮影された北海道の山々。見たこともない風景。原初の世界からの未知の光景。北海道在住の写真家・中西敏貴は、人間の概念による分類や風景化を免れた手つかずの自然を求めて、大雪山系を撮影した。

「近代の人々が風景という概念を持ち込むことができなかったこの場所を、アイヌの人々はいくつかの呼び名を使って表現していた。「カムイミンタラ」という言葉は一般的に知られているが、その聳え立つような姿から、「槍がそこで反り返っている」「槍がそこで立っている」というニュアンスを持つ「オプタテシケ」という言葉も使われていたのだという。たしかに、この山々は北海道の中央を貫くように反り返っており、西と東では大きく植生が異なるほどだ。」

-中西敏貴

「さて、中西の最新作である『オプタテシケ』は、北海道中央部に位置する大雪山国立公園内にある、旭岳から十勝岳連峰にかけての山々が舞台である。松浦武四郎が1845年以降、蝦夷や樺太、国後島、択捉島を探検・調査し、のちに北海道と命名する前には、この名で呼ばれていた。北海道最高峰の旭岳を主峰とする大雪火山群を中心に、壮大な山々が連なるこの一帯は北海道の屋根と言われ、溶岩台地が標高の高い地域に大規模に広がっているため噴出する火山の数が多く、また、多彩な高山植物に色鮮やかに彩られた広大な高山帯はその美しさから「神々の遊ぶ庭」とアイヌの人々に呼ばれた。
中西の作品は、手つかずの自然や健やかな自然の原形としての大雪山系のイメージから、まるで遠い彼方にある惑星の表面のような世界観を提示している。残雪とのコントラストが生み出す静謐な空気感、刻々と変化する雲の表情など、壮大なスケールで広がる「宇宙」を細部まで観照し、丹念に写し止めている。モノクロームゆえの多彩な世界が聴こえてくるような作品群である。」

-関次和子(東京都写真美術館 学芸員)本書収録テキストより

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