日本との関わりが生み出した本書「赤穴」は、数年間をかけて制作された。
性器や日の丸のイメージを湛え、「私は穴なのよ」と呟いた日本人女性との関係に全編が貫かれている。
人間の存在を形づくる狂気や暴力。絶望的な追求。「撮る」とは常に限りなく、遠くへ、遠くへ、失敗を宿命づけられた試みー。
イマージュと言葉、どちらかがどちらかを超えながら、先へ先へと進んでいく。そこには、人生と写真との不純な関係、写真と被写体との公平ではない関係も激しく浮き彫りにされていく。
写真はアメーバのように増殖し、100通を超えるメールは海となる。
悲劇的な状況にいる女性たち。本質としての力強さ、美しさ。常識を逸脱する哲学と詩。ダガタの最高傑作。

 

アントワーヌ・ダガタ|Antoine d'Agata
1961年マルセイユ生まれ。
1980年頃から10年間ヨーロッパ、中米、アメリカなど世界各地を放浪。
1990年ニューヨークのICP(国際写真センター)で写真を学ぶ。
生活のため93年から数年写真から離れるが、その後活動を再開し、取材のほか、写真展の開催や多数写真集を出版する。
1999年パリで"Vu"に参加。2001年にはニエプス賞受賞。2004年、『Insomnia』(不眠症)で第20回東川賞・海外作家賞を受賞。
写真集に、『Mala Noche』(不貞な夜)(1998年)、『Home Town』(2001)、『Insomnia』(不眠症)(2003)、『Vortex』(渦)(2003)、『Stigma』(2004)、『Psychogeographie』(2005)、『Fukushima』(2015)などがある。
2014年、"Anticorps"の日本語版『抗体』が出版され、同展覧会が東京のアツコバルーにて開催。2015年、MEM(東京)にて「Aitho」開催。
2004年マグナムに参画、2008年より正会員。