写真評論家 飯沢耕太郎 26年ぶりの第二詩集

作品掲載作家(掲載順):
・野村仁衣那
・磯部昭子
・下瀬信雄
・村上賀子
・サイトウマサミツ
・ときたま
・小林小百合
・川田喜久治
・小平雅尋
・尾仲浩二
・飯沢耕太郎

『「芸術写真」とその時代』(筑摩書房、1986年)でのデビュー以来、飯沢耕太郎さんの持続的で、熱心な、「評論」を軸にした「写真」の世界への関与には、目をみはるものがあります。『写真美術館へようこそ』(講談社現代新書、1996年)でサントリー学芸賞を受賞したその年に、一方で、飯沢さんは『茸日記』(三月兎社)という一冊の詩集を出版したのを知っていますか?

そこから四半世紀あまりの月日を経て、『日本写真史』という大作の執筆中に溢れ出た22の詩篇がいま、様々なアーティストの写真・絵・コラージュ作品とともに、詩集『完璧な小さな恋人』としてまとまります。

気鋭のグラフィックデザイナー、田中せりさんによる装幀も秀逸。詩集でありながら全ページカラー印刷の華やかさを存分に生かしたページデザインに加え、随所に散りばめられた別帖や観音開きなど「紙」であることの特性を利用した仕掛けが、読む・見る喜びを喚起し演出します。

コロナ時代の憂い、妹を思う永遠の哀しみ、無邪気、幻惑、好奇、引用、色褪せない表現への冒険心が、自由に、リズミカルに響きわたる一冊です。

※ 封入されている新聞「A LITTLE PERFECT LOVER」には、飯沢さんのインタビュー記事、詩集『茸日記』の担当編集者であった尾方邦雄さんのエッセイが掲載されています。

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集まったのは四人
死者と少女と虫とわたし

死者は最初から不機嫌
死んでるんだから
コロナに罹るわけがないだろ
うっとうしくて たまらん
お客様 お客様
マスクの着用をお願いしております

少女は マスクを巧みにずらしては
黙々とスープを飲み
肉や野菜を口にほおばる
騒々しいのは
いやに重いナイフとフォークが
カチカチ皿に当たる音

虫は無数の手をせわしげに動かし
素手で料理をつかんでは
長い顎で噛み砕いて咀嚼する
その間
ひっきりなしにくしゃみとしゃっくりとをくり返し
ぶつぶつ ひとり言をつぶやく
マスクはかろうじて上顎に引っかかっているが
ほとんど役に立っていない

わたし?
わたしは
淡々とコースを進める

本書収録「静かなマスク会食」より一部抜粋

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● 詩とともに掲載される作品リスト(抜粋)
・ジョン・テニエル『不思議の国のアリス』の挿画より[加筆・飯沢耕太郎]
・磯部昭子「無題」
・村上賀子「A LITTLE PERFECT LOVER」
・サイトウマサミツ「A Day in the Life」
・川田喜久治『Mask』(Nazraeli Press,2022) より
・小平雅尋『同じ時間に同じ場所で度々彼を見かけた(I OFTEN SAW HIM AT THE SAME TIME IN THE SAME PLACE)』 (シンメトリー、2020 年) より
・尾仲浩二『フランスの犬 The Dog in France』
( 蒼穹舎、2008 年) より
・飯沢耕太郎「天體の驚異」