代表作「gazetteer」「CC」から 262 点を収載した、集大成の一冊。

地名収集という方法で制作を続けている松江泰治。新刊『gazetteerCC』(ギャゼティアCC)では、世界の砂漠や森、山脈、平原など、自然を収集した「gazetteer」と、都市を収集した 「CC」の両作品を、H275mm × W360mm の大きな判型に展開しています。影の生じない時間と方角を選び、空や地平線を排除して平面性を追求した写真は、「絶対ピント」と評される明瞭さで、写真の隅々にまで写り込んだ要素が等価に浮かび上がり、肉眼で捉えきれなかった細部が立ち現れます。 写真の本質を貫く独自の技法で制作された「gazetteer」「CC」シリーズから、大判カラーフィルムで撮影した262 点が収載された、決定版となる写真集です。

800部限定、サイン、エディションナンバー入り

 

"本写真集を構成する「CC」「gazetteer」のシリーズは空撮写真ではない。それは綿密な下調べ(アクセシビリティ、日照時間と光線の角度、ベストな撮影時間)を経て選び出された、地上の高所から撮影された風景であり、しかも基本的に ―地上の条件が許す限りで― 俯瞰写真ではなく、風景に対して正対している。そこには晴天、順光、正対、絶対ピントという4つの条件がある。原則として晴天、順光時の写真であること。そして被写体の真正面から正対するアングル。縦位置を用いず、横位置のみで水平線を入れないオールオーヴァーの画面が、視線の上下に合わせて自動的に生じる、空間・時間の深さを排除し、水平線の「彼方」への視線の彷徨を遮断し、観る者の感情移入をはね返して、写された全てのものを前面化させる。言いかえれば、観る者の注意を、空間的な深さの代わりに、高解像度で画像内に詰め込まれた過剰な情報の深みへ導く。そして「絶対ピント」。レンズにとって絶対的、すなわち肉眼に依存しないピント位置と言えば焦点であり、全ての光が焦点で像を結ぶのは、その光が無限遠からやって来るときである。つまり「絶対ピント」とは、無限遠に合わせて撮影し、レンズの原理から自動的に得られるピントであり、そのとき光の情報は漏れなくフィルムに定着される。「絶対」とは、人間が見ることを前提とせず、人間にとっての「漏れなく」ではない、という意味である。(中略)

写真の過剰とは、写真が世間に過剰に氾濫していることではない。人間には写真を一望することはできない、写真を見尽くすことなどできないということである。それは写真を見るとき、その「見る」という行為が、不可避的に写真上に影 ―不可視の部分― を作り出すからである。都市や自然を高所から一望するスタイルをもつ松江泰治の写真は、まさに一望の不可能性を思い知らせる。そして写真を、未だ見ぬ細部の豊かさへと開くのである。"

本書収録テキスト「写真の過剰」
清水穣(美術評論家、同志社大学グローバル地域文化学部教授)より抜粋

 

松江泰治
1963年東京生まれ。現在、東京にて制作活動。1987年東京大学理学部地理学科卒業。
2002年第27回木村伊兵衛写真賞受賞。2012年第28回東川賞国内作家賞受賞。2013年第25回「写真の会」受賞。
『gazetteer』、『CC』、『JP-22』(大和ラヂヱーター製作所)、『cell』(赤々舎)、『jp0205』『LIM』(青幻舎)、『Hashima』(月曜社)など、写真集多数。
主な個展に、2006年「JP-22」(ヴァンジ彫刻庭園美術館、静岡)、2012年「世界・表層・時間」(IZU PHOTO MUSEUM 、静岡)、2018年「松江泰治 地名事典|gazetteer」(広島市現代美術館、広島)、2021年「マキエタCC」(東京都写真美術館、東京)、2022年「松江泰治 JP-32」(島根県立石見美術館、島根)など。国内外のグループ展、芸術祭等に多数参加。
東京国立近代美術館(東京)、東京都写真美術館(東京)、東京都現代美術館(東京)、国立国際美術館(大阪)、青森県立美術館(青森)、横浜美術館(神奈川)、サンフランシスコ近代美術館(アメリカ)、バークレー美術館 パシフィックフィルムアーカイブ(アメリカ)、サンタ・バーバラ美術館(アメリカ)、ヨーロッパ写真美術館(フランス)などを含む、国内外多数の美術館に作品が収蔵されている。

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