カメラに向けられた力強い眼差し。沈黙の果てに語られる言葉。
ジェノサイドの際に性的暴力を受けた女性とその子どもたちの肖像。

「こんなヘビーな本なのに、不思議に心がゆったりした。きっと子供たちの目が、めちゃくちゃ美しくて、それに救われたんだと思う」 (坂本龍一)

「トーゴヴニクは代弁しない。恫喝しない。みずからの正に酔わない。 〈圧倒的な現実〉に対してアートの無力を嘆く、などといった常套にも断じて屈しない。 ーその不屈こそが突きつける、この〈写真〉と〈証言〉の無限の切り結び合いを、今こそ、そして此処でこそ。」 (佐々木 中)

20世紀最大の悲劇のひとつ、ルワンダのジェノサイド(集団殺害)の際に、大勢の女性が「武器」として性的暴力を受け、その結果およそ2万人の子供たちが生まれたという事実は、いまなおほとんど知られていません。母親たちの多くは、いまだに深刻な肉体的・精神的トラウマを抱えながら、社会的に孤立した状態で子供を育てており、その半数以上はHIV/エイズにかかっているとも言われています。
ニューヨークを拠点に活動中の写真家ジョナサン・トーゴヴニクは、取材で訪れたルワンダでこのような現実を初めて知り、大きな衝撃を受けます。そこでみずからのプロジェクトとして、3年間をかけてこうした境遇にある女性たちへのインタビューと撮影を行ないました。カメラの前に初めて立った母親たちとその言葉には、事実の生々しさを超えて、人間のもち得る真実の強さが秘められています。

本書の著者、ジョナサン・トーゴヴニクは、写真家という立場を逸脱するようにして自らインタビューも行い、「ルワンダ財団」を立ち上げるに至りました。社会との接点に身を晒しながら撮ろうとするなかで突き当たる限界と、それゆえの可能性を本書は体現しています。それは、アートとジャーナリズムの架け橋という本質的な可能性とも言えるのかもしれません。