2000年代初頭,インターネットを介して相互に働きかけられるオンラインメディアが生活に浸透していく中,田中はそのキャリアをウェブデザイナーとしてスタートし,コンピュータとテクノロジーを使って多様なデザインを編んできた。

田中個人と,主宰するセミトランスペアレント・デザインの活動領域は多岐にわたり,田中のことをグラフィックデザイナーと認識する人もいれば,ウェブデザイナーやメディアアーティストだと考える人もいる。それは田中が,媒体や発表形態にとらわれずに作品づくりを展開してきたからだろう。

それらの作品を視覚的に結びつける派手さや,厳格なスタイルはないものの,作品それぞれが共通する方程式の解であるかのように,その営みのどこかに田中の気配を感じさせるデザインの根拠がある。その根拠を生み出すキーワードは「時間軸」だ。そして,田中が意識する時間軸は「文脈」とも言い換えられる。

本特集では田中良治が手掛けてきた多様な作品群を,グラフィックデザイン・ウェブデザイン・インスタレーションアート・展示企画と,その形態によって分類し,カテゴリーごとに時系列で配置した。収録した作品のセレクトは田中自身の手による。1枚1枚の紙の上に作品を並列に配置し, 田中の創作に係るテキストを交えることで,過去と現在の田中の仕事を接続し,カテゴリーを超えて一本の帯となった,田中が志向してきた「時間軸をもったデザイン」が立ち現れることを目指した。

Tags: アイデア