広川泰士は長年、地球との関係、宇宙との関係において人間の存在と営みを表そうとしてきた。一段とシャープな批評性をもつ本書では、人間が自然を破壊した風景、自然が自らの居場所を奪還しようとする風景(ときに天災)、地震と原発がもたらした風景、インフラ、都市のスクラップアンドビルドなどが展開される。人工物はときに圧倒的な美しさをもちながらも、寄る辺ない唐突な存在として眺められ、地表で行われる様々な人間の営為が俯瞰されるようだ。人影がほぼ写っていないこれらの写真群は、未来へ向かおうとする人類へのメッセージにほかならない。
「本作で広川氏は、審美的な意味では、極めてストイックなアプローチを試みている。自然の中に置かれた人工物には、言い知れぬ所在なさがあり、その整然とした幾何学性は途方に暮れて持て余されている。自然を征服しようとする近代の野心のぎらつきは、既にそれ自体が惰性的で、私たちに突きつけられているのは、索漠としたその『結果』である。」(本書所収:平野啓一郎「人間の居場所」より)
広川泰士
1950年神奈川生。74年よりフォトグラファーとして活動を始め、世界各都市での個展、美術展への招待出展多数。講談社出版文化賞、ニューヨークADC賞、文部科学大臣賞、経済産業大臣賞、日本映画テレビ技術協会撮影技術賞、A.C.C.最優秀撮影賞、他受賞。サンフランシスコ近代美術館、フランス国立図書館、東京都写真美術館、神戸ファッション美術館他で作品が収蔵されている。東京工芸大学教授。