「この写真は、あなたの見た夢。」

すべての写真が、アウトオブフォーカス。
夢の中で見たような光景とともに投げかけられる、15の問い。
「inception」は、私たちがいつかどこかで見た、夢の中の風景だ。

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inception=インセプションとは「開始・始まり」「発端」という意味で、哲学や心理学では事象の原因や開始点を指します。
写真の始まりはカメラ・オブスクラで得られた曖昧な映像。そのゆらめく光に人々は魅了されてきました。

本書は、アウトオブフォーカスの画像と15の問いの組み合わせで構成されています。作家がこれまでに出版した6冊の写真集の延長であり、また原点でもあります。

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いったいあの四年間は何だったんだろう。
当たり前だと思っていたことが一瞬で停まってしまい、今思えば長い句読点が打たれたような時間だった。

人混みをさけ、妻とふたりで海へと向かった。人の気配が消えた海岸の砂浜に力メラを向けると設定が室内で撮ったままになっていたせいで、画面は白くてフォーカスも全く合っていなかった。今までだったら合わせ直すところなのだが、焦点がどこにも合っていない画像が春の海岸の暖かさを伝えていた。それ以来「温度」を撮るために焦点を合わせない写真を撮り続けた。

ある眠れぬ夜、ふとクリストファーノーラン監督の映画「inception」のことが頭をよぎった。エージェントが他人の夢に入り込み、機密情報を盗み出すというストーリーだ。その時、今撮っている焦点の合っていない写真とこの映画が結びつき、同時にある言葉が浮かんできた。

「聞かせて、昨日何の夢を見た?」

翌朝、僕は15の「聞かせて」を一気に書き上げ、これを写真集にすることを決めた。

「inception」の意味は「はじまり」。止まっていた時間が動き出し、新しい「はじまり」を感じる本を生ろうと思った。

渡部さとる

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